大学における薬物事件の実名・顔出し報道に関する緊急要望書

報道関係者各位

                                       2023年12月1日

依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク
一般社団法人 ARTS(Addiction Recovery Total Support)
特定非営利活動法人 全国薬物依存症者家族会連合会
特定非営利活動法人 ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会
特定非営利活動法人 全国ギャンブル依存症家族の会

大学における薬物事件の実名・顔出し報道に関する緊急要望書

 私たちは、 日本の薬物問題、また依存症対策に関わる者として、 現在起きている日大アメフト部の大麻所持事件に対する報道について危機感を抱き 、 マスコミ各社にこの度の要望書を提出することと致しました。
 今回の日大アメフト部の大麻所持事件では、 学生の 1 人がわずか 0.019gの大麻片を所持していたことから端を発し、大学の経営陣の内紛等も絡めて必要以上に大きく報道され、繰り返し学生の写真付実名報道が行なわれています。
 また令和 5 年 11 月 27 日に報道された、同アメフト部の 3 人目の逮捕に至っては、 大麻取締法違反ではなく、 麻薬特例法違反の罪での逮捕でした。 軽微な犯罪にもかかわらず、実名・顔写真報道を繰り返すのは甚だしい人権侵害です。 これら実名報道により 学生達の実家や人間関係まで暴かれさらされることになりました。
 大麻他、 薬物の個人によ る 少量の自己使用については、先進国ではすでに犯罪者として扱うのではなく、 人権に基づく公衆衛生アプローチへと切り替えています。 2023 年 6 月 23 日には国連人権高等弁務官事務所が国際社会に対し声明を発表し、 「個人のための薬物使用と所持は緊急に非犯罪化されるべき 」であるとし、違法薬物犯罪の扱いについて処罰を支援に置き換え、人権を尊重・保護する政策を推進することを求めましたが、日本の政策はこ の国連の声明に逆行する動きをと り、マスコミも政府の動きを増長させています。
 しかしながら 大麻の所持に対し島根県警では、 県内の警察署勤務の男性巡査長(26)を大麻取締法違反(所持)の疑いで書類送検し、懲戒免職処分にしましたが、同県警は証拠隠滅や逃亡の恐れがないなど「総合的な判断」として逮捕せず、 若い職員の未来を考えプライバシー保護を理由に名前や勤務場所も公表しないという判断を下しました。
 こういった英断を下す組織がある一方で、 日大アメフト部の事件では、 理事長が有名女性作家であることも影響し学内で内紛が勃発、そのため報道が面白おかしく過熱していき、連日逮捕された学生の実名・顔出し報道がなさ れるという事態に陥っています。
 マスコミの皆さんは、未来ある若者が大麻の自己使用という微罪でデジタルタトゥーが残り、 将来にわたって教育や就職の機会が奪われてしまうという二次被害が起きぬよう配慮して頂きたいと思います。


既にご承知のことと思いますが、「日本民間放送連盟 報道指針」には、 以下のように記されています。
3.人権の尊重
(1) 名誉、プライバシー、肖像権を尊重する。
(2) 人種・性別・職業・境遇・信条などによるあらゆる差別を排除し、人間ひとりひとりの人格を重んじる。
(3) 犯罪報道にあたっては、無罪推定の原則を尊重し、被疑者側の主張にも耳を傾ける。 取材される側に一方的な社会的制裁を加える報道は避ける
(4) 取材対象となった人の痛み、苦悩に心を配る。事件・事故・災害の被害者、家族、関係者に対し、節度をもった姿勢で接する。集団的過熱取材による被害の発生は避けなければならない。
(5) 報道活動が、報道被害を生み出すことがあってはならないが、万一、報道により人権侵害があったことが確認された場合には、すみやかに被害救済の手段を講じる。


 私ども、 依存症問題に関わる当事者・ 家族・ 支援者は、 捜査機関が大麻の個人所持の逮捕者を、報道機関に個人情報を提供すること 、また報道機関が捜査機関に逮捕者の個人情報提供を求める ような現在の姿勢を改めて頂くことを強く望みます。
 報道の自由も大切ですが、この国の未来を考えれば、何よりも若者の再起に配慮することが優先されるべきだと考えます。
 現在行われている「薬物事犯には何をやってもいい」という、 さらし者のような報道のあり方を早急に改善して頂くことを要望致します。

以上

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